こんにちは!kawaii転職のうさり(@kawaii_tenshoku)です。
箱根の旅館に宿泊に来た転 羽紗里(うたたね うさり)と婚約者の河合 一悟(かわい いちご)。羽紗里の独断でWebサイトの作り直すことになり、気まずくなる二人だったけれど、仲直りして早速、Web作成に取り掛かかることに。すると突然、一悟が「僕たち、結婚する前に転職した方がいいんじゃない?」なんて言い出してーー?
登場人物
- 転 羽紗里(うたたね うさり)- 人材広告会社の記者
純粋無垢な変人。他者が考えないような妄想をするのが好き。言葉足らずで相手を困らせることが多い。一悟と付き合って3年になる。
- 河合 一悟(かわい いちご)- 人材広告会社のデザイナー
真面目な常識人。いつも羽紗里に振り回されて辟易しているが、そんな毎日も嫌いじゃないと思っている。羽紗里に惚れて5年になる。
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♡このお話はフィクションです。結婚・転職という大きなライフイベントを迎える二人の旅路をどうぞ楽しんでご覧ください。お話を読んでいるだけで転職ノウハウも得られちゃうかも?♡
転職小説 第三話「これって転機じゃないですか?」
頭上に広がる澄んだ青色を見上げ、サラッとした空気をひとつ吸って、ゆっくりと吐く。羽紗里は何度か呼吸を繰り返して、そっと胸に手をあてた。
「はあ……」
胸にあてた手を下ろしながら、深くため息をつく。どれだけ快晴で、空気が清々しくても、朦朧とした思いは未だ晴れてくれないようだーー。
箱根湯本駅から、箱根登山鉄道に乗って、赤色の車体に揺られること、約40分。羽紗里は、山小屋のような褐色の三角屋根が被さった強羅駅に一人、訪れていた。駅前は大きく開けていて、コンクリートの歩道を囲むように色とりどりの暖簾をかけた土産屋が立ち並ぶ。ちらほらと観光客らしい人影もみえて、どこからか食欲を誘う甘い匂いも漂ってくる。
箱根に訪れて二日目を迎える今日の目的地は、旅館『夢見』の女将の親戚が営む、着付け店『はないろ』だ。着物・浴衣・袴が揃い、着付けはもちろんレンタルも行っている『はないろ』は、繁忙期だと一日に百はゆうに超えるお客さまの着付けを担うのだとか。そんな人気店に訪れる理由はただ一つ、旅館『夢見』の裏手にある八脚門を活かすためだ。
「地図読むの苦手なんだよなー」
女将に手渡された『はないろ』への地図を眺めながら、一人ごちる。「どれ、貸してみ?」と、いつもなら助けてくれる相方も今はいない。それもそのはず。羽紗里は一悟と遅めの朝食を取った後、物言いたげにしている一悟に気づかないフリをして、「取材行ってくる!」と叫ぶように伝え、そそくさと一人出てきてしまったのだから。
「もう、やだやだっ。頭を切り替えないと、なのに……」
羽紗里は昨晩ーーといっても明け方近い時間ではあったが、一悟が不意に溢した言葉を思い出していた。
『僕たち、結婚する前に転職した方がいいんじゃない?』
さらりと、「ちょっとコンビニ行かない?」なんて誘い文句のように軽い言葉が聞こえてきて、思わず目を見張った。
なんとか相槌を打つと、一悟は王子様がなんだとか、転機がどうだとか流暢に話を進めていたが、羽紗里の頭はもうそれどころではなかった。意識的に睡眠のスイッチを入れて、電源を落とす。何も聞こえない。聞いてない。わたしは何も聞いていないんだと、暗示をかけるように目を瞑った。
だって、そんなの受け入れられるわけがない。結婚をやめよう、なんて。
一悟の言葉を何度も頭のなかで再現したけれど、昨日の言葉はそうとしか思えなかった。仲直りはしたけれど、やっぱり今回の件には納得がいっていないのかもしれない。または、積もり積もった不安の種がついに箱根の地で芽吹いてしまったのかもしれない。いや、でも、もしかしたら。婚約破棄、まで考えている可能性もある。
「いやいやいやっ。そんな、いや、そんな……」
考えれば考えるほど、深みに落ちていく心地になる。こんなことなら、一人飛び出して来ずに、一悟に聞いてみれば良かったのかもしれない。だけれど、もしその一言がきっかけで、二人の関係性が終わってしまったらと考えると怖くてたまらない。
いま羽紗里ができることといえば、旅館『夢見』のWebサイトづくりを成功させて、少しでも箱根旅行が良い思い出としてアルバムに刻まれるように努力することだ。悪い思考を追い出すように頭を振って、パンッと軽く頬を叩く。
もう一度、地図に視線を落とした羽紗里は、何度か方向を確認してから、ゆっくりと歩み出しだ。
・ ・ ・
ーー羽紗里を怒らせてしまったらしい。
羽紗里と別行動をする一悟は、宿のなかで頭を悩ませていた。
昨夜ディナーを楽しんだダイニングルームは一夜明けて、優雅なティータイムを過ごせそうなカフェへと変貌していた。円卓のテーブルにはシルクのクロスがかかり、中央には銀色の小瓶に入った白いダリアが大きく花開いて窓の外を仰いでいる。
一悟は、湯気立つ青色の小花が散るコーヒーカップを見つめながら、知らぬ間にため息を吐いた。
『僕たち、結婚する前に転職した方がいいんじゃない?』
そう、言葉にしてみて、すごくしっくりきた。けれど未だ、羽紗里から返答はもらえていない。昨夜は羽紗里の妄想理論から始まった王子様話がこんな結果になるなんて思いもよらず、半分興奮しながら説明したのだけれど、いつの間にか羽紗里は寝息を立てていて、朝を迎えてもう一度伝えようにも、さっさと取材に出て行ってしまって機会を逃してしまった。さらには、羽紗里からはどこか不愉快そうなオーラも感じた。
「寝不足で? いや、あのオーラは違うよな……」
できることなら、一悟はもう一度、羽紗里に転職の提案をしたいと思っている。
一悟と羽紗里が勤める広告会社は、広告業界のなかで見れば、まだ残業は少なく休日も取れるほうだ。けれど、だからと言ってワークライフバランスが取れているかと聞かれれば否、だ。朝から晩まで仕事に費やす日も多いし、休日返上で納期と対峙することだってある。今回の1週間休みなんて1年前から根回しを重ねてもぎ取ったほどだ。
それでも毎度、仕事に楽しさややりがいを感じられたら良いけれど、担当する仕事は営業が獲得した案件が自動的に割り振られていく仕組みで、選択権はほぼ皆無に等しい。ベルトコンベアに乗って自分の元に流れてくる仕事をひたすらこなす日々だ。
達成感がないと言えば嘘になるけれど、”会社にやらされている”という感覚が拭いきれなくて、ヤキモキする日も多々あった。羽紗里も同じ不満を口にすることはよくあったし、上司と反りが合わないようでよくブツブツと文句も言っている。
『あの馬面上司の口に、土で汚れたにんじんをね、これでもかと突っ込んでやる妄想を今日だけで5回した! 5回だよ!?』
と、手をパーにして激しく怒りを露わにする羽紗里の姿も記憶に新しい。「本当にやっちゃだめだよ?」と諭せば、「にんじんが勿体ないわ! 誰がやるか!」といきり立っていたっけ。
そんな折にやってきた箱根旅行。そして羽紗里から飛んできた『王子様』という言葉。羽紗里語録によると『成功に導いてくれる転機のことを王子様』と呼ぶらしいが、今の状況こそ、二人に訪れた転機なんじゃないかと一悟は考えていた。
「こんな気持ちにさせられたのは、初めてなんだよなー」
箱根の地で請けることになった、会社と全く関係のないWebサイトづくりという仕事。この仕事を通して一悟は初めて、”やらされ感”から解放されたのだ。自ら考えて、女将を、そしてこの旅館に未来訪れる人々を喜ばせるものを作る面白さに出会ってしまった。
一悟も羽紗里も、まだ今の会社の世界しか知らない。世の中にはきっともっと、いろんな価値観や考え方・働き方で価値を生み出している仕事や会社があるはずだ。他の生き方を知ることもなく、狭い世界のなかだけで過ごしつづけるなんて勿体ない。それに仕事はプライベートにも密接に関わってくるのだから、今回を機に人生そのものを見直しても良いんじゃないかとさえ思う。
進学・就職・結婚・出産・育児・転職・退職は人生に大きな変化をもたらすビッグイベント。そのなかでも「結婚」というライフイベントに取り掛かろうとしていたけれど、よく考えてみれば、結婚生活を堪能する時間が今の一悟と羽紗里にはない。なぜなら、1日の大半の時間を”つまらない仕事”が奪っていってしまうからだ。
ゆっくり食卓を囲む時間も、気ままに散歩に出かける時間も、行きたい時に出かけられる時間の余裕も、すべてが仕事を理由に制限されてしまっている。そんな仕事に左右される生活は嫌だ。結婚したら新婚旅行にも行きたいし、明日には忘れてしまうどうでも良いことを語りながらご飯を食べたいし、ゆくゆくは子育てもできたら良いなと思っている。最後の願望は未だ一悟の胸の内にあるだけなので、羽紗里の気持ちを知ってからになるけれど。
とにかく今のままじゃあ、いけない気がした。結婚というビッグイベントの前に、転職というイベントを迎えて、仕事もプライベートもどちらも対等な位置で楽しめる環境に身を移した方がきっと良いと一悟は考えたのだ。だけれど、どうだろう。
「はあ……」
思ったよりも重苦しいため息が出てきて、肩を落とす。
この考えを伝えようにも、鬱陶しげな今の羽紗里にもう一度話すのは得策ではない気がする。そもそも一悟は羽紗里が何に腹を立てているのか分からないのだから、対処のしようがない。
コーヒーカップの取っ手を指先で掴んで、ブラックのままズズズと啜るように口に入れる。ふわっと広がる酸味の強い苦味が、まるで一悟の感情をあらわしているようで眉を寄せた。
「あら、お口に合いませんでした?」
柔らかい声の方を振り返ると、若緑色に二葉葵の葉の文様が施された着物を着た女将が首を傾げてこちらを見ていた。
「ああ、いえ。違うんです。ちょっと彼女を怒らせてしまったようで。どうしたものかと……」
「まあ。もしかして当館のサイトのことで……?」
心配そうに眉を顰める女将に、いやいやと大きく手を振って否定する。むしろWebサイトづくりが原因で怒ってくれた方が一悟にとっては良かっただろう。原因を突き止めやすいし、対処の仕方だっていくつも思いつける。
「サイトづくりは関係なくて! むしろ好調ですよ。けど、なんだろう。なんか、彼女に避けられているというか……」
「避けられている……。どんなご様子だったのですか?」
「サイトづくりの話は、いつも通りしてくれるんです。すごく楽しそうに話してくれて、僕も楽しくて。きっと良いサイトができると思います。でも他のことになると、話を遮ってくるんですよ。昨日までは普通に話してくれていたのに。今朝も取材に行くと言ってすぐに出て行ってしまって。どこに取材に行ったのかも分からず仕舞いなんです。きっと何か気に障ることを僕が言ったか、やったかしたんでしょうけど……」
ううん、と頬に手を当てて考え込む女将を見て、ハッと我にかえった一悟は、またいやいやと大きく手を振った。カッと顔に熱が昇る。
「す、すいません! こんな話しても仕方がないことを……!」
「いいえ、構いませんよ」
「いやぁ恥ずかしいな……。忘れてください」
「じゃあ、わたくしから一言だけ」
そう言うか早いか、女将は懐から紙とペンを取り出すと、サラサラと何かを記していく。数秒で完成したそれを一悟に渡しながら、女将は目尻に皺を寄せて微笑んだ。
「おそらく、怒ってなどいないと思いますよ。彼女、とても楽しみにされていましたから」
「な、何を……? これは、地図ですか?」
「行ってみたら分かると思います。それにきっと、あなたが来てくれたら喜びますよ」
「はあ……」
ポカンと口を開ける一悟に、女将は含み笑いを浮かべると軽く会釈して、奥へと引っ込んでしまった。残されたのは『はないろ』と書かれたお店がゴールに示された手書きの地図だけだった。
第四話はこちら|kawaiiお仕事物語はつづく♡
kawaiiお仕事物語は、まだまだ続きます♡
転職活動の息抜きに、仕事の合間の息抜きに、通勤中や休憩中の暇つぶしに、お楽しみくださいませ。
次回予告
一悟が着付店『はないろ』で合流を果たすと、仕事モードの羽紗里によって、一悟はあれよあれよという間に着せ替え人形にされてしまう。なかなか転職の話題を切り出せずにいた一悟だったけれど、ついにチャンスが訪れる。意を決して、羽紗里に声をかけるけれどーー?
▶︎第四話「これって誤解じゃないですか?」はこちらをクリック!
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